夏の終わりから晩秋にかけて、相模湾は一年のなかで、もっともにぎやかな時期を迎える。
ベラやチョウチョウウオなど、色とりどりの熱帯・亜熱帯性の魚の幼魚たちが目につくようになるからである。
本来、サンゴが育つ南の海の住人であるこれらの魚たちは、いったいどこからやってくるのだろうか。
実は、沖合いを流れる黒潮が、南の海から暖かい海水とともにかれらを運んでくるのである。
ただし、運んでくるといっても成魚が海流に乗ってやってくるわけではない。
卵や遊泳力に乏しいふ化後間もない仔稚魚の時代に、流されてくるのである。
ただ、かれらの生まれ故郷は正確にはわかっていない。
サンゴの育つ紀伊半島以南のどこかと推測されている程度である。
かれらはやがて悲しい運命を迎える。
一二月も後半になって水温が下がると、かれらは一つ、また一つと姿を消してゆく。