昔コタンの人たちが魔神の峡谷と呼んだところに堤をつくり、音更川の流れを人工的にせき止めてつくった然別湖。
多くの人造湖には無理に水没させたむごたらしさがあるのですが、ここにはそれが見当りません。
あたりの森林の樹木には重いほどサルオガセがまつわりつき、そそりたつ深山の暗さがその汀にまでせまっていて、遠いウペペサンケやニペソツの山々が、老神のように静かにその姿を倒影しています。
そのしんしんとした水の色は、昔からここにあった湖のように、すっかりあたりの風景になじんで、何の無理も感じません。
たえまなく湖面からたちあがる霧の流れや、その流れの陰から浮きあがる、魚群の波紋までが、何か妖精の呪文にかかったもののような、深い心のときめきを感じさせられたりします。
冬の日は、そんな神秘が秘められた湖があるとも思われないように、しんと凍った湖上に音もなく雪が降りつみます。
ところどころで氷に穴をあけて、赤い火を抱きながら、釣人たちがしきりに何かを釣りあげています。
近寄ってみると、夕昏色の腹をしたイワナです。
糠平とはアイヌ語のノカ・ピラで、何かの像のある崖のことです。
音更川の支流、糠平川の河口に、何かの像を刻んだような崖があったのに名付けられたと思うのですが、その崖もすっかり湖底に沈んでしまって、今はさぐりようもありません。
この小さなな流れの岸にヌカビラ温泉があり、木の香も新しい家々が集まっています。
温泉は少しぬるいですが、静かに身体を沈めていると、心の中まで明るくなるような温泉といったら少しほめすぎでしょうか。
札幌旅行だけにしなくて良かったです。